添加物のない映画
クリントイーストウッド監督
『15時17分、パリ行き (原題:The 15:17 to Paris)』
現在87歳のクリントイーストウッド監督は、俳優としての映画出演を経て今も映画を作り続けており、
先日『15時17分、パリ行き』を観に行きました。
映画館のアナウンスで、
「13時30分、15時17分、パリ行きの入場を開始いたします」
ん?何時??ってなるっていう (笑)
ここ10年の作品は、観る度、嗚咽。
嗚咽といって、ごーごーと涙を流すわけではなく、涙は少ししか出ないのです。
なのに、嗚咽。
これは一体どういう状態なのか。
お腹の奥のみぞおちの奥のところらへん。
その深いよくわからないところが、燃えるのです。メラメラと。
もし、立って鑑賞をしたら、腰が砕けてふにゃふにゃに崩れ落ちる感じ。
それくらい、「感動」ということばではとても表現のできない、深い何かがあります。
観たい人のために。観る人の為に。
ネタバレをしないように、『15時17分、パリ行き』の感想を書きます。
「添加物のない映画」。
フィクションでもない、ドキュメンタリーでもない。
新境地だと感じました。
実際の事件を元にした映画なのですが、3人のメインキャストは実際の3人。
俳優ではない、一般人。
これは公式の情報なのですが、私は事前情報ゼロで観たので知りませんでした。
自然も自然。演技かどうか?なんてことは一切意識させない。
有名な俳優さんではないんだな、と、思っただけです。観た事のない人だったから。
この映画は、とてつもなく地味で、決して観ていて楽しいものではありません。
映画を観に行こう!と思って、休日に楽しく観に出かければ、その地味さにやけどします。
あの有名なクリントイーストウッドの新作だ!とワクワクして観に行けば、最近のイーストウッドの作品の傾向を知らない人は、やっぱりやけどします。
15時17分の列車で、一体何があったんだ?! とんでもない悲劇、テロ!?、サスペンス!何があったんだ!的なテンションで観に行くと、それでもやけどします。

無駄なものを排除するシンプルな表現。
排除するというよりシンプルにしかなりようのない、イーストウッドの頭の中。
87歳にして、世界中に伝えたい明確なメッセージ。
イーストウッドおじいちゃんの、映画作りの経験値は凄まじいものがあります。
映画に出続け、創り続けたイーストウッドが辿り着いた場所。
賞賛すべき人間性とは何か。
こういう映画に出会った時の歓喜がたまらなく、私は映画を見続けます。
映画館という夢の詰まった場所、映像としての楽しさ、スクリーンの表面が感知できないほど物語と自分が融合する感覚、監督の感性に触れ私の中にそれが入ってきてしまう体験、今の私の器は何をどう感じ得て学べるのか、そして、哲学する。
私はイーストウッドのメッセージを受け取りどう行動できるのか。
確実に私の中の何か重要な部分に触れ変化させてくれた、素晴らしい素晴らしい映画でした。
あと何本彼の作品に、彼の考えに触れることができるだろう。
